工場のBCP対策とは?
大手・中小企業の取り組みを解説

「工場のBCP対策」と聞いて、ピンとくる方は少ないでしょう。
BCPとは、災害が起きても会社の活動をなるべく止めないための準備のことです。
当記事では、工場のBCP対策について、基礎知識から作成の流れまで詳しくお伝えします。
これからBCPを策定しようとしている方は、ぜひ参考にしてみてください。

BCPとは?

BCPとは?

BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれるものです。
簡単にいうと、大きなトラブルが起きても、会社の最低限の活動を継続するための計画書です。

工場にとっては、生産を続けられるかどうかが会社の命運を分けることが多々あります。
たとえば停電が数時間でも続けば、数千個の製品が作れなくなり、納期に遅れる可能性があります。
損失や信用低下を防ぐために、事前に代替手段や復旧手順を決めておくのがBCPです。
「万一の時に被害を最小化し、すばやく立ち直るための設計図」ともいえるでしょう。

なぜ工場にBCP対策が求められるのか

なぜ工場にBCP対策が求められるのか

工場は一度止まると影響が極めて大きいため、特にBCP対策が必要です。
理由は3つあります。

● 1日止まるだけで数百万円〜数千万円の損失になるから
● サプライチェーン全体に連鎖的な影響が出るから
● 災害に弱い立地に建っているケースが多いから

1日止まるだけで数百万円〜数千万円の損失になるから

工場は、毎日フル稼働して初めて利益が出る仕組みになっています。
1日ラインが止まるだけも、数百万円〜数千万円分の製品を作れなくなり、そのまま売上の減少に直結します。

納期が遅れれば取引先からの信用も揺らぎ、翌月以降の受注減につながる可能性も。
「1日でも止まると経営に直撃する」という特性があるため、BCP対策が不可欠なのです。

サプライチェーン全体に連鎖的な影響が出るから

ワンストップで全工程が完結する工場より、単独では存在できない工場のほうが多いでしょう。
つまり、部品を仕入れて製品を作り、他社へ供給するという「サプライチェーン」の一部となっていることが多いのが実情です。
そんな状態で1つの工場が止まれば、次の工程もストップし、最終工程まで遅延してしまいます。

自社だけでなく取引先や消費者まで影響を及ぼすため、BCP対策を行っていない場合の被害は想像以上に大きくなり、イメージダウンが避けられない状況になってしまいます。

災害に弱い立地に建っているケースが多いから

工場は広い敷地を必要とするため、川沿いや郊外、海に近い土地に建つことが少なくありません。
そんな立地は、洪水・高潮・地震など自然災害の影響を受けやすいのが特徴です。

大雨で工場が数日間止まれば、生産遅延だけでなく「災害に弱い会社」というレッテルがつき、信用回復に数か月以上かかることも。
レピュテーションリスク対策としても、BCPの策定は重要です。

規模で変わるBCP対策

規模で変わるBCP対策

BCP対策は企業の規模によって重点を置くべきポイントが異なります。
大企業は多拠点・多取引先を活かして調達や生産を分散し、中小企業は限られた資源の中で優先業務や復旧資金を確保することが大切です。
以下で詳しく説明します。

大手企業の場合

大手企業は資金力と人員が豊富なため、BCP対策も多方面に展開できます。
調達先を国内外に分散させ、サプライヤーにもBCP策定を要請するなど、広くリスクを分散させられるのが強みです。

仮に10社の仕入先のうち半分が被災しても、残りから供給を確保できる体制を作れます。
「多拠点・多取引先」を活かしたリスク分散こそが、大手ならではのBCP対策です。

中小企業の場合

中小企業は大手に比べ、拠点や資源が限られます。
1つの工場が止まるだけで、経営全体が危機に陥る可能性もあります。

そのため、大手と同じような分散戦略を取るのは現実的ではありません。
自社が最低限存続できるように「復旧資金の確保」や「データの分散バックアップ」など、身の丈に合った対策を優先しましょう。
「選択と集中」で限られた資源を活かすのが、中小企業のBCP対策です。

大企業の工場のBCP対策のポイント

大企業の工場のBCP対策のポイント

資本金が3億円を超える大手企業なら、次のポイントを意識してBCPを作成しましょう。

● 非常時に継続する業務を選定する
● 安否確認体制を整備する
● 災害対策+訓練を実施する
● 代替拠点を確保する
● 保管場所や取引先を分散する

非常時に継続する業務を選定する

大手の工場では扱う業務が多岐にわたるため、災害時にすべてを同時に継続するのは不可能です。
「止めてはいけない業務」をあらかじめ決めておきましょう。

たとえば、自動車工場なら輸出用の完成車ラインを優先し、研究開発業務は一時中断するなどの対策が考えられます。
各部署の協力を仰ぎつつ、必要不可欠な業務を洗い出してみましょう。

安否確認体制を整備する

大規模工場では数百人〜数千人単位の従業員が働いています。
有事の際に全員の安全を把握できなければ、作業再開どころではなくなるでしょう。

万が一の時に全員の安全を確認するため、専用アプリや一斉メールを活用した安否確認体制を整えることが大切です。
災害発生から数時間以内に出勤可能な人員を特定できれば、復旧の初動を大幅に早められます。

災害対策+訓練を実施する

どれだけ立派なBCPを作っても、訓練しておかなければ、いざという時に現場は動けないでしょう。
計画書ができたら、全社に展開して訓練を行います。

避難訓練や机上演習に加えて、サイバー攻撃を想定したシステム復旧訓練も大切です。
実際の被害を想定した訓練を繰り返すことで、従業員が「もしもの時にどう動くか」を事前に理解し、被害を最小化できます。

代替拠点を確保する

大手企業は全国や海外に複数の工場を持っていることが多く、1拠点が被災しても他拠点で代替生産できる体制を整えられるのが強みです。
「全停止」のリスクを避けられるからです。

国内工場が被災しても、あらかじめ海外拠点へ生産を切り替える仕組みを整えておけば、納期を守って信頼の失墜を防止できます。
複数の工場があるなら、全拠点で連携できるメリットを活かせる仕組みを作っておきましょう。

保管場所や取引先を分散する

部品や完成品を一か所に集中保管していると、災害時にすべてを失う可能性があります。
倉庫や調達先を複数に分散させることで、このリスクを減らせます。

分散させておけば、仮に倉庫の半数が被害を受けても残りで供給を維持できれば、サプライチェーン全体の混乱を防ぐことが可能です。
リスク分散の視点で対策を打っておきましょう。

中小企業の工場のBCP対策のポイント

中小企業の工場のBCP対策のポイント

中小企業のBCP対策ですが、大企業と同じようにするのではなく、身の丈にあった対策をすることが大事です。
具体的には次の3点を意識しましょう。

● 復旧資金を確保する
● 社内教育を行う
● 他社と連携できる体制を整えておく

復旧資金を確保する

中小企業は、売上が途絶えると資金繰りに直結する恐れがあります。
致命的なリスクだと、数週間で経営危機に陥ることも。
企業を倒産させないためには、復旧までの数か月を乗り切れる資金を確保することが最重要です。

公的な融資制度や保険を事前に調べ、必要に応じて迅速に使える状態にしておけば、資金ショートを避けられる可能性が高まります。
あらかじめ運転資金を多めに持っておくのも良いでしょう。

社内教育を行う

人数が限られる中小工場では、特定の人しか知らない作業がある可能性が高くなります。
属人性が高い業務を放置すると、その人がいなくなった時に復旧が遅れます。

安否確認の手順や非常時の代替作業を全社で共有しておけば、非常時の現場の混乱を大幅に減らせます。
つまり、従業員全員が最低限のBCP対応を理解できるよう教育する必要があるということです。

他社と連携できる体制を整えておく

中小企業は、自社だけですべてのリスクに備えるのは難しいかもしれません。
同業他社や地域企業との「相互支援協定」を結ぶことも考えましょう。
自社工場が被災した際に、一時的にラインを貸してもらう、逆に他社を支援する仕組みを整えるということです。

サプライチェーンへの影響を最小限に抑えられる効果もあるため、協力できそうな企業があれば連携を打診してみましょう。

工場のBCPを策定する流れ

工場のBCPを策定する流れ


工場のBCPを策定する際は、以下の手順で行います。

1. 策定する目的を考える
2. 最重要業務を選定する
3. 災害時に想定されるリスクを洗い出す
4. リスク対策の優先順位を考える
5. BCP対策マニュアルを作成する

1.策定する目的を考える

最初に「なぜBCPを作るのか」を明確にしましょう。
目的が曖昧だと計画が形だけになり、非常時に機能しないからです。

「災害時でも出荷を3割は維持する」や「社員の命を最優先に守る」といった具体的な目的を設定すれば、関係者全員が共通のゴールを意識できます。
誰にでも伝わる、シンプルな目的を設定して共有しましょう。

2.最重要業務を選定する

次に「絶対に止めてはいけない業務」を見極めます。
非常時の工場では、すべての工程を同時に復旧するのは現実的ではありません。

食品工場なら消費期限が迫っている冷蔵ラインの生産を優先し、試作品や開発中ラインは一時停止する判断が必要です。
医療機器の工場であれば、病院への納入が決まっている製品を最優先とし、補助部品の在庫補充は後回しにするなどが考えられます。

つい「どの業務も大切だから」と優先順位を上げたくなりますが、厳しく選定してください。

3.災害時に想定されるリスクを洗い出す

続いて、災害時に想定されるリスクを洗い出してBCPを作成します。 工場が直面するリスクは自然災害だけでなく、サイバー攻撃やシステム障害もあります。
たとえばランサムウェアに感染して基幹システムが暗号化されてしまった場合、受発注や在庫管理が数日間ストップし、紙での対応に切り替えるしかなくなってしまいます。

こうした「デジタルリスク」も想定に含めておかないと、BCP対策が万全とはいえないでしょう。

4.リスク対策の優先順位を考える

リスクに対して「どの業務を最初に守るか」を明確にする必要があります。
業務ごとに優先順位を整理すれば、有事でも混乱せずにすみます。

たとえば、地震で物流が止まった場合は、出荷よりもまず安全確認と主要設備の点検を最優先にすると決めておくと、災害時にすぐに対処できるでしょう。
どんなリスクに対して、どの業務を優先するか、もう一度考えてみてください。

5.BCP対策マニュアルを作成する

最後に、策定した内容をマニュアルにまとめて現場で使える形にします。
マニュアル化して初めてBCPは「実際に動く仕組み」になります。

ここで重要なのは、机上の計画を具体的な行動指針に落とし込むこと。
「停電時は発電機を起動する」「安否確認は30分以内にアプリで報告」など、誰が読んでも実行できる手順書を作りましょう。

工場のBCPを実行するためのBCMとは

工場のBCPを実行するためのBCMとは


BCMとは「Business Continuity Management(事業継続マネジメント)」の略です。
BCPを単なる計画で終わらせず、実際に現場で動かすための仕組みがBCMです。
BCPが「非常時の設計図」だとすれば、BCMはそれを現場で動かす「エンジン」といえるでしょう。

工場では設備や人員が複雑に絡むため、マニュアルを作成しただけでは不十分です。
定期的に訓練や教育を実施し、改善を続ける必要があります。
停電対応をBCPに書くだけでなく、実際に非常用発電機を試運転して手順を確認したり、安否確認システムを使って全員が数分で報告できるか訓練したりしましょう。
こうした取り組みを繰り返すことで、初めてBCPは意義があるものになります。

工場のBCP取り組み事例

工場のBCP取り組み事例


BCPを実際に機能させるため、全国の工場や事業者ではさまざまな取り組みが進んでいます。
ここでは具体例を3つ紹介します。

非常時のニーズを踏まえた設備やシステム、連絡体制を整備

ある古紙リサイクルを担う組合では、台風被害をきっかけにBCPを策定しました。

自然災害対策として、ドローンでの被害確認・非常用発電機の整備・重要機械のリスト化と相互融通・年1回の防災訓練などを実施。
感染症対策では、健康管理アプリによる全従業員の体調把握・消毒チェックリストの徹底・組合内での相互派遣による人材確保を行いました。

廃棄物収集・運搬といった要の業務を継続できたおかげで、顧客からの信頼向上や組合内連携の強化につながりました。

自社の規模と業務内容に応じて、個人でできる取組を実践

とある写真現像業の企業では、台風・地震・新型コロナを機にBCPを策定したそうです。
大雨での機材被災に備えて水災保険を拡充し、特注機材は地域同業者と相互融通できる体制を構築しました。

顧客データのバックアップHDDを高所に設置し、併せてクラウド利用も検討。
感染症対策としては機材消毒のリスト化や衛生用品の常備を徹底しました。
また、LINEを活用して緊急連絡を取る仕組みを導入したところ、新たな受注窓口にも発展するという副次的効果が。

小規模事業者でも、低コストで実行できる取り組みを積み重ねることで信用力を高め、事業継続性を向上させた良い事例です。

同業者同士の連携で被災時における相互支援体制を確保

佐賀県の協同組合では、令和元年佐賀豪雨を機に「自らが被災した場合」に備える必要性を痛感したそうです。
そこで、同業4社と関連会社3社が、協力してBCPを策定しました。

計画では災害時の役割分担や指揮系統、情報伝達ルートを明文化し、新型コロナ対策も組み込みました。
具体的には、LINEによる情報共有や月例会議、若手職員の参画を通じて連携を強化。
緊急時の対応力や従業員の防災意識が向上し、組合の信用力アップや人材育成にもなりました。

まとめ

まとめ


今回は、工場のBCP(事業継続計画)について解説しました。
災害や停電、感染症など、予期せぬリスクに備えることは、生産を止めないための重要な経営課題です。
BCPの基本を理解し、自社の規模に合った対策を講じることで、被害を最小限に抑えられます。

特に老朽化した屋根や設備は、災害時の大きなリスク要因になり得ます。
早めに工場や倉庫の改修を検討しましょう。
どこに依頼すべきか迷ったら、施工面積600万㎡を超える、全国トップクラスの施工実績を誇る綿半ソリューションズへご相談ください。
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