工場の休憩室は、従業員の疲労回復や安全意識、生産性に直結する重要な空間です。
近年では、単なる「休む場所」ではなく、働きやすい工場作りの中核として再設計する企業が増えています。
みなさまの企業では、そういった休憩室作りができていますか?
より良い休憩室を作って、作業効率を上げたいと考えてはいるものの、どのように取り組めば良いかわからないという企業さまも多いかもしれません。
そこでこの記事では、オフィス環境診断士 1級を持つ筆者が、工場休憩室の基本設計からレイアウト、法律、事例までを体系的に解説し、失敗しない休憩室作りの考え方をご紹介します。
ご一読いただき、ぜひより良い休憩室作りにご活用ください。
1.工場に休憩室が求められる理由と役割
まず、工場の休憩室が持つさまざまな役割について解説していきましょう。
1-1.工場の休憩室が持つ役割
工場勤務は心身ともに負担がかかるため、安全で安らげる場所として、質の高い休憩室が必要です。
また、休憩室は労働安全衛生の観点からも重要な設備といえます。
適切な温熱環境や照度管理はもちろん、熱中症や脱水症の防止を図る上でも、休憩室の役割は重要です。
休憩室が快適であれば、離職率低下や人材定着にも寄与するでしょう。
休憩室が充実していれば、会社に対する社員の愛着が高まり、「ずっとこの職場で働き続けたい」と思ってもらえるかもしれません。
加えて、休憩室は食事の場や休憩所としての役割にとどまらず、気持ちをリフレッシュさせ、次の作業に向けたチャージの場所として必要不可欠な場所です。
1-2.生産性と安全性に与える影響
快適な休憩室があれば、十分な休憩をとることができ、集中力の回復につながります。
特に、単調な作業や高度な精密作業が続く工場現場では、適切な環境での休憩が欠かせません。
また、工場勤務における疲労による注意力の低下は、労働災害の原因となります。
ヒューマンエラー防止と事故リスク低減のためにも、リラックスできる環境が大切です。
また、休憩室は現場からすぐ行ける距離が理想です。
現場から短時間かつ安全に、ストレスなくアクセスできるかをチェックしましょう。
休憩が快適であれば、居心地の良さから自然と会話も弾み、社内コミュニケーションも活性化します。
部署の垣根を超えた情報が活発になれば、トラブル防止やビジネスのアイデアも生まれやすくなるでしょう。
さらに、配慮の行き届いた環境はゆっくり休むことができるため、日々の業務に対する意欲(モチベーション)の維持にも寄与します。
1-3.人材確保・定着への効果
多様な人材(年齢や性別)を確保したい場合も、休憩室は大きなポイントになります。
特に、女性や若手層は清潔感を重視します。
掃除が行き届いており、静かでリラックスできる休憩室は、安心感を与えます。
また、部屋全体のデザインやインテリア、設備がよく考えられており、おしゃれであれば、来客や取引先に対しても良い印象と信頼感を与えます。
最近では、休憩室が大きなアピールポイントになることも多く、採用広報で活用されるケースもあります。
おしゃれな休憩室は、企業のイメージアップにつながるため、人材が集まる大きな武器になるといえるでしょう。
2.工場休憩室のレイアウト設計ポイント
ここからは、工場休憩室のレイアウトを設計する際のポイントを解説していきます。
2-1.人数や動線を考慮した設計
休憩室の席数やレイアウトは、働く従業員の人数によって変わってきます。
人数規模と利用時間帯を踏まえた設計をし、ものや設備は片付けやすい動線が確保できるようにしましょう。
加えて、入り口付近にゴミ箱やトレイ返却口を置き、奥を静かに休むエリアにするなど、ルールを作れば、空間の質が上がります。
2-2.汚れにくい素材を使い掃除のハードルを下げる
掃除しやすい素材選びも、快適な休憩室作りのポイントになるでしょう。
工場の現場では、汚れが落ちやすい素材を選び、日々の掃除のハードルを下げることが重要です。
現場特有の粉塵の発生も考えられるため、現場と休憩室をしっかり分けるゾーニングは大切です。
上着掛けや靴の履き替え場なども作り、そこで物理的に汚れを遮断できるようにしましょう。
2-3.遮音設計でリラックスできる空間にする
工場の現場では、さまざまな機械音が発生します。
二重扉の入り口や吸音パネルの設置で、現場の機械音をシャットアウトできれば、休憩室はより快適になり、リラックスしやすい空間になるでしょう。
2-4.基本レイアウトと必要設備
テーブル席と個別席のバランスも重要なポイントです。
休憩室での過ごし方は、人それぞれ異なります。
カウンター席や仮眠室などを設けるなど、多様な休憩スタイルに対応することで、従業員の満足度が向上します。
自販機、給湯、電子レンジなど、音と臭いの出るものは入り口近くにまとめ、動線をわかりやすくしましょう。
また、更衣室は近い方が便利ですが、喫煙所はタバコの煙や臭いが休憩室に漏れると、非喫煙者の満足度が下がります。
法規制を守った配置が求められます。
加えて、使いやすい動線の確保や清潔感を考慮した更衣室は、多くの若い人や女性従業員に評価されるポイントです。
改修を行う際は、普段更衣室を利用している従業員の意見を取り入れてみましょう。
2-5.おしゃれで使いやすい空間作り
休憩室に使用する内装色や照明でも、印象は大きく変わります。
たとえば、白い照明を暖色系に変えるだけでも、空間の工場感がかなり軽減されるでしょう。
壁の一面だけ色を変えたり、間接照明の場所を作ったりすることで、リラックス効果を高めることもできます。
また、家具を同じセットで揃えず、多様な形のものを混ぜてみるとカフェのような雰囲気になり、汚れも目立ちにくくなるというメリットもあります。
とはいえ、掃除が大変なものは工場には向きません。
できるだけシンプルな素材を選び、色や柄を組み合わせてデザインしましょう。
植物や自然のデザインは、ストレス軽減につながります。
本物が置けなくても、フェイクグリーンを配置するだけでも爽やかさがアップするでしょう。
さらに、色違いの家具やソファー席の設置により、従業員それぞれにお気に入りの場所や席ができれば、満足感も上がりやすくなります。
2-6.規模別レイアウトの考え方
小規模工場の休憩室であれば、省スペース設計+多機能化が、従業員満足度のカギとなります。
壁を使って見せる収納にしたり、椅子の下を収納スペースにしたりするなど、空間の有効活用をしてみましょう。
中〜大規模工場であれば、各作業エリア別に休憩スペースを点在させ、人の密度を下げ、しっかりと休めるよう分散配置がおすすめです。
加えて、将来の増員を見据えた可変性も大切なポイントになります。
家具を床に固定せず、伸縮できるテーブルや連結できる家具を設置すれば、将来的な人数変更やレイアウト変更が必要になっても、柔軟に対応できるでしょう。
3.工場休憩室に関わる法律と注意点
休憩室は単なるサービスではなく、会社が従業員に提供すべき安全な場所です。
そのため、休憩室に関する法律を守ることは、会社の信頼を守ることそのものとなります。
まずは、「建築基準法」や「労働安全衛生法」との関係を整理しましょう。
建物としてのルールと、そこで働く人の健康を守るルールを両輪とすることで、本当の安心が生まれます。
3-1.労働安全衛生法の基本
労働安全衛生法上では、労働者が有効に利用できる休憩場所を設けるように努める義務があります。
単なるスペースを設けるだけではなく、心身を休められる状態でなければなりません。
特に、常時50人以上が働く工場では、体調不良時に横になれる「休養室」を、男女別に設ける義務があります。
また、分煙ではなく、休憩室内の完全禁煙や、基準をクリアした喫煙専用室の設置も必要です。
3-2.建築基準法・用途区分の注意点
休憩室のリノベーションは、役所への用途変更の手続き申請が必要になるケースがあります。
たとえば、建物の増築や、大規模な修繕を伴う改修を行う場合は、自治体への確認申請が必要となり、申請をせずに行うと、違反建築となるリスクがあるため注意が必要です。
また、休憩室の内装には不燃・準不燃材料の使用が求められています。
特に、什器や備品が避難経路を塞がないよう注意し、通路幅は1.2m以上を確保し、床に荷物を置かないようにしましょう。
3-3.改修時に見落としがちなポイント
改修時は、空調・換気・断熱性能の確保ができているかをチェックしましょう。
多くの人が集まると、二酸化炭素濃度が上がります。
二酸化炭素濃度は1,000ppm以下が基準とされているため、十分な換気ができるようにし、爽やかな空間でリフレッシュできるようにしましょう。
屋根や外皮性能も室内環境に影響を与えるため、断熱性能も重要になります。
特に、工場は夏は暑く、冬は極端に寒くなりがちです。
そのため、断熱が不十分だと光熱費が嵩むだけでなく、とても不快な空間になります。
内装だけでなく、屋根や外皮素材選びも、快適な休憩室作りに欠かせません。
また、リラックスを意識しすぎて照明を暗くなりすぎていないかにも注意しましょう。
法律では最低でも70ルクス以上の明るさが求められます。
4.工場休憩室の改修・リニューアル事例
ここでは、さまざまな工場休憩室の改修・リニューアル事例をご紹介します。
4-1.老朽化した休憩室の改善事例
築年数の古い工場の休憩室の場合、夏はサウナのように暑く、冬は冷蔵庫の中にいるような寒さというケースは珍しくありません。
屋根の遮熱塗装や窓の断熱改修をすることで、厳しい外の気温をシャットアウトできます。
また、雨漏りを放置しているとジメジメした空間になり、カビや菌の発生につながります。
カビの発生を防ぐために床に直接ものを置かない棚配置をおすすめします。
そのほか、タイルの床にカーペットを敷いたり、エアコンを新しいものに変えたり、電灯をLEDに変える、壁紙を綺麗なものに張り替えるといった方法でも、古い休憩室を爽やかな空間に改善できるでしょう。
4-2.働き方改革を意識した事例
「楽しく話したい」「ひとりでスマホをみたい」「目を閉じたい」など、休憩室での過ごし方は人それぞれです。
椅子の数やテーブルの大きさ、仕切りで分けられた個人スペースの設置など、ゾーニングで分けて多様な居場所を作りましょう。
植物の設置や落ち着いた色の照明、リラックスできる音楽を楽しめるように改善した例もあります。
4-3.改修成功の共通点
日々のちょっとした不満は現場の人しかわかりません。
満足度の高い休憩室を作るためには、現場のリアルな声を拾い上げることが大切です。
アンケートだけでなく、実際に休憩時間に足を運んで動線の流れや収納詰まりを確認してもらいましょう。
また、今回は床だけ張り替えて終わりのような継ぎ接ぎの補修は、結局すぐほかの場所の欠点が目立ち、いつまでも満足度が上がりません。
予算の範囲内で、コンセプトを持って一新することが大切です。
会社のプロジェクトとして立ち上げ社員と一緒に実行すれば、「長く愛される休憩室」を完成させられるでしょう。
5.Q&A
ここでは、工場の休憩室に関して、よくある質問をまとめています。
Q1. 工場に休憩室を設置する法的義務はあるか
A.労働安全衛生規則上、しっかり休める場所を作る努力義務があります。
さらに、スタッフが50人以上(女性なら30人以上)いる工場では、体調が悪いとき横になれる休養室を、男女別に設ける義務があります。
Q2. 休憩室の適切な広さはどれくらいか
A.一般的には「一度に休憩をとる人数 × 1.5㎡〜2.5㎡」が目安とされています。
単なる面積だけでなく、ゆったり通れる通路幅(1.2m以上が目安)や、パーソナルスペースの確保も重要なポイントです。
Q3. 既存建物でもおしゃれな休憩室は可能か
A.既存の配管やコンクリートの質感を活かしたデザインは、今非常に人気があります。
壁の一面だけ色を変えるアクセントクロスや、温かみのある照明、植物の設置などでも、空間の印象は大きく変わります。
Q4. 改修費用を抑えるポイントは?
A.「床」・「壁」・「照明」の3箇所を重点的に変えるだけでも、見た目は大きく変わります。
また、高価な新品家具でなくとも、色や素材感を統一した中古什器を活用したり、あえてバラバラのデザインを混ぜたりする手法でも、センス良く見せることも可能です。
さらに、不要なものを手放し、ものの定位置を決めれば、余計な什器費用をかけずに、快適な空間が作りやすくなります。
まずは、休憩室を利用する従業員の声を聴いて、不要なものがないかをチェックしてみてください。
まとめ
工場の休憩室は、食事をとるだけのスペースではありません。
そこで働く人々の心と体を整え、意欲を引き出すために大切な空間です。
理想の休憩室を実現するためには、使いやすいレイアウト、守るべき法律、そして暑さ寒さに左右されない建物の性能などを理解し、工夫をこらしていく必要があります。
なにから手をつければいいかわからないというときは、計画段階から専門家の知見を取り入れてみてください。
整理収納のちょっとしたコツや、建物診断のプロの視点が入るだけで、成功はグッと近くなります。
最高の休憩室を作り、従業員の満足度を高めていきましょう。
記事の監修者
江副 恵理(えぞえ えり)
オフィス環境診断士 1級
株式会社さぼり場 代表取締役。2017年ハウスクリーニング会社に就職し、整理収納アドバイザー1級、オフィス環境診断士1級を取得。
2019年に整理収納アドバイザーとして独立し、2024年に「株式会社さぼり場」を設立。
整理収納アドバイザーの業務に加え、埼玉県戸田市のレンタルスペース「さぼり場」を運営し、個人や企業のコミュニティを創出の場を提供中。
